動脈硬化症について
1. 概念(定義)
動脈硬化症とは、血管の壁が硬くなり、弾力性を失い、内腔が狭くなる病気です。特に中〜大動脈(冠動脈・頸動脈・大腿動脈など)に起こりやすく、血流が悪くなることで臓器への酸素や栄養の供給が妨げられます。脳卒中、心筋梗塞、下肢閉塞性動脈硬化症など、重大な合併症を引き起こす原因として知られています。
動脈硬化にはいくつかのタイプがありますが、最も代表的なのが「粥状動脈硬化(アテローム性動脈硬化)」で、コレステロールなどの脂質が血管壁に沈着し、プラーク(かたまり)を形成することで血管が狭窄・閉塞します。
2. 疫学(どのくらいの人がかかるのか)
動脈硬化は加齢とともに進行するため、高齢になるほど有病率が高まりますが、最近では糖尿病や脂質異常症、喫煙などの影響で、40〜50代からの若年性動脈硬化も問題となっています。
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日本における現状:心筋梗塞や脳梗塞による死亡者数は年間約10万人を超え、多くが動脈硬化に起因しています。
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男女比:閉経後の女性はエストロゲンの減少により動脈硬化のリスクが急激に増加します。
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生活習慣との関係:肥満、運動不足、過度な飲酒、ストレスもリスクを高めます。
3. 主な症状と身体所見
初期の動脈硬化は無症状のことが多く、「沈黙の病気」とも呼ばれます。しかし進行すると以下のような症状が現れます:
冠動脈(心臓)に影響した場合:
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胸の痛み(狭心症)
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強い胸痛と冷汗(心筋梗塞)
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動悸、息切れ、倦怠感
脳動脈の場合:
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一時的な言語障害や片麻痺(TIA)
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意識障害、半身麻痺(脳梗塞)
下肢動脈の場合:
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歩くとふくらはぎが痛む(間欠性跛行)
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足の冷感やしびれ、皮膚の色調変化
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進行すると壊死や潰瘍を生じることも
身体所見:
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頸動脈雑音(聴診での異常音)
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下肢の末梢動脈の触知困難
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血圧左右差
4. 診断方法
① 血液検査
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LDLコレステロール:高値は動脈硬化の主因
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HDLコレステロール:低値もリスク
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中性脂肪(トリグリセリド)
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血糖・HbA1c:糖尿病の合併確認
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炎症マーカー(CRP):慢性炎症の存在
② 画像検査
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頸動脈エコー(IMT測定):血管壁の厚さとプラークの有無を評価
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CTアンギオ(冠動脈・下肢動脈など)
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MRI・MRA(脳血管評価)
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ABI(足関節上腕血圧比):下肢動脈の狭窄評価
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PWV・CAVI:血管の硬さ(血管年齢)を測定
③ その他
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運動負荷試験、心電図、心エコーなども併用されます。
5. 治療
【1】生活習慣の改善
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禁煙:最も重要な介入
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食事療法:
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飽和脂肪酸の制限
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食物繊維の摂取(野菜・海藻・豆類)
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減塩(1日6g未満)
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運動療法:
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有酸素運動(週150分程度)を推奨
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減量:BMIが25以上であれば、5〜10%の減量を目標に
【2】薬物療法
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スタチン(HMG-CoA還元酵素阻害薬):LDLコレステロールを下げ、プラーク安定化
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SGLT2阻害薬・GLP-1受容体作動薬:糖尿病を伴う患者において、動脈硬化リスク低減効果が示されています
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抗血小板薬(アスピリン、クロピドグレル):脳・心血管イベントの再発予防
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ARB/ACE阻害薬:高血圧およびプラーク進行予防
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EPA製剤:中性脂肪高値および冠動脈疾患の二次予防
【3】外科的治療(重症例において)
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カテーテル治療(PCI)
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ステント留置
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バイパス手術
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下肢動脈形成術
6. 予後と合併症
動脈硬化は進行性・全身性の疾患であり、一部の血管だけでなく全身の血管系に波及します。以下のような重大な合併症のリスクがあります:
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心筋梗塞:突然死のリスクも
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脳梗塞・脳出血
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心不全
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腎不全(腎動脈狭窄)
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末梢動脈疾患による壊疽・切断
しかし、早期発見・適切な管理により進行を遅らせることは十分可能です。特に生活習慣病の管理(糖尿病・脂質異常症・高血圧)と禁煙が予後を大きく左右します。
7. 当院でできること
当院では以下のような検査・管理を通じて、動脈硬化の早期発見と進行抑制をサポートしています:
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頸動脈エコー(IMT・プラーク評価)
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ABI・CAVIによる血管年齢測定
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血液検査による動脈硬化リスク評価
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管理栄養士による食事指導(週3日常駐)
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薬物療法の開始・継続支援
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心電図・心エコーによる心機能評価
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必要に応じて循環器専門医への紹介
まとめ
動脈硬化は、知らないうちに進行し、ある日突然、命に関わる病気を引き起こす「サイレントキラー」です。しかし、適切なタイミングで評価と管理を行えば、健康寿命を延ばすことが可能です。
気になる症状がある方や、リスク因子(糖尿病、高血圧、脂質異常症、喫煙歴など)がある方は、お気軽にご相談ください。
2025/05/26 第1稿