睡眠時無呼吸症候群(SAS)について
1. 概念
睡眠時無呼吸症候群(SAS:Sleep Apnea Syndrome)は、睡眠中に何度も呼吸が止まる、あるいは極端に浅くなることで、十分な睡眠が取れず、日中の眠気や集中力の低下、さらには心血管疾患などの合併症を引き起こす病気です。
「10秒以上の無呼吸が、1時間あたり5回以上認められる状態」と定義されており、放置すると高血圧や心不全、不整脈、脳卒中、糖尿病などの重大な疾患のリスクが高まります。
2. 疫学
SASは日本国内でも非常に多く見られる疾患であり、推計では中等度以上の睡眠時無呼吸を有する人は男性で約20%、女性で約10%程度とされています。特に40〜60歳代の男性で多く、肥満との関連が強いのが特徴です。
しかし、痩せていても顎が小さい、舌が大きい、扁桃肥大があるなどの解剖学的要因でも発症するため、必ずしも肥満だけが原因ではありません。
3. 症状と所見
SASでは以下のような症状が現れます。
主な症状:
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いびき(特に断続的で大きないびき)
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夜間の呼吸停止やあえぎ
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日中の強い眠気
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起床時の頭痛
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熟睡感の欠如、夜間頻尿
身体所見や周囲からの指摘:
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家族から「息が止まっていた」と言われる
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肥満(特に首回りの太さ)
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高血圧、糖尿病、脂質異常症の合併
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顎が小さい、小顔、扁桃肥大
これらの症状は、仕事中や運転中の眠気事故にも直結し、社会的にも大きな問題を引き起こします。
4. 診断
SASの診断には以下の検査が用いられます。
4-1. 問診・スクリーニング
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エプワース眠気尺度(ESS)などで日中の眠気を評価
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睡眠中のいびき・無呼吸の指摘があるか確認
4-2. 簡易検査(自宅で実施可能)
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携帯型の睡眠ポリグラフ装置で、睡眠中の呼吸や酸素飽和度を測定
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AHI(無呼吸低呼吸指数)で重症度を判定:
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軽症:5〜15回/h
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中等症:15〜30回/h
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重症:30回/h以上
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AHI 5回/時以上で睡眠時無呼吸症候群(SAS)と診断可能(医学的基準)
簡易検査でAHI 40回/時以上の場合、PSGなしでもCPAP治療が可能(保険診療上の実務運用)
上記未満(5〜39)では次項のPSGでの確定診断が必要
4-3. 精密検査(ポリソムノグラフィー:PSG)
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病院で1泊して、脳波・眼球運動・筋電図・呼吸・酸素濃度・心電図などを詳細に評価します
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睡眠の質まで評価できる「ゴールドスタンダード」です
5. 治療
5-1. 経鼻的持続陽圧呼吸療法(CPAP)
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最も標準的な治療法で、鼻マスクを通じて一定の空気圧を送り込み、気道を広げて無呼吸を防止
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特に中等症〜重症に効果的
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保険適用があり、定期的な外来フォローが必要
5-2. 生活習慣の改善
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減量(特にBMIが25以上の場合)
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飲酒制限(特に就寝前の飲酒)
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睡眠薬の使用見直し(筋弛緩による悪化)
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睡眠姿勢の調整(仰向けで無呼吸が悪化する人では側臥位が推奨)
5-3. マウスピース療法(口腔内装置)
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軽症〜中等症向け。下顎を前に出すことで舌の沈下を防ぎ、気道を確保
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歯科での作製が必要
5-4. 外科的治療
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扁桃肥大や鼻閉などの構造的な原因がある場合、耳鼻科での手術(UPPPなど)を検討
6. 予防と再発防止
6-1. 肥満の是正
体重減少はSASの改善に直結します。1kgの減量でもAHIは改善すると言われています。
6-2. 飲酒・睡眠薬の見直し
就寝前の飲酒や睡眠薬の使用は気道の筋肉を弛緩させ、無呼吸を悪化させます。
6-3. 睡眠環境の整備
静かな寝室、適切な寝具、規則正しい睡眠リズムなど、良質な睡眠を保つ工夫も重要です。
7. SASと合併症の関係
SASは、以下のような生活習慣病や循環器疾患と深い関連があります:
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高血圧(夜間高血圧)
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心房細動などの不整脈
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脳卒中や心筋梗塞のリスク増加
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2型糖尿病との関連(インスリン抵抗性の増加)
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うつ病や注意力低下
また、SASは運転免許の更新などにも関係し、交通事故のリスクを高めるため、治療の継続が社会的にも強く求められています。
8. 当院でできること
当院では、睡眠時無呼吸症候群のスクリーニングから治療開始後のフォローまで、トータルにサポートしています。
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簡易検査機器の貸し出しと解析
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専門施設での精密検査(PSG)への紹介
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CPAP導入と継続管理(オンライン診療にも対応)
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管理栄養士による減量指導
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歯科連携によるマウスピース療法
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自費診療になりますが減量外来の紹介
9. 最後に
睡眠時無呼吸症候群は、たかが「いびき」と思われがちですが、実際は命に関わる病気と深く関係しています。適切に治療すれば、日中の眠気が改善し、合併症の予防にもつながります。思い当たる症状がある方は、ぜひ一度ご相談ください。