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痛風・高尿酸血症について

痛風とは

 痛風という病気は、血清尿酸濃度が上昇したときに関節のなかの尿酸濃度も高くなり、尿酸結晶ができて炎症がおきる病気です。通常血清尿酸値が7 mg/dLを超えると痛風がおきやすくなるため、この値をこえる病態が高尿酸血症と呼ばれます。

 さて、私たちの祖先のサルも痛風だったのでしょうか?あるいは哺乳類のネズミたちも痛風があったのでしょうか?今日は尿酸の進化論から始めたいと思います。哺乳類の血清尿酸値は実は類人猿になるまで血清濃度1 mg/dL以下と極めて低い濃度でした。尿酸は食事の中のプリン体に由来ものと体の細胞が壊れたあとにできるプリン体から産生されます。ネズミたちはその尿酸をすぐ次の物質のアラントインに代謝することができるため低い値になったのです。おそらく痛風もおこさなかったでしょう。

  一方で、鳥や爬虫類の一部では尿酸値は高いようです。鳥は空を飛ぶために尿を減らして体重を軽くし、固形のまま尿酸を体外に排泄する方法をみつけたようです。ハトなどが出す白い尿のかたまりが実は尿酸のかたまりなのです。爬虫類の1つである恐竜も尿酸が高めだったようです。今となっては血液の尿酸濃度を測定できませんが、痛風の痕跡を残したティラノザウルス・レックスの化石が発掘されています。肉食であることと低温動物であったことも関係しているでしょう。

 それではヒトにおいてはどうして血清尿酸が上昇したかを説明したいと思います。哺乳類から霊長類に進化したのが今から5500万年前です。初期の霊長類は樹上生活であったため主食としての木の実や葉っぱにはビタミンCが豊富に含まれています。このビタミンCは生物が生きていくために重要な役割を果たしています。

 みなさんは、「老化」という言葉を耳にすることとおもいます。老化は一種の経年変化による体の摩耗あるいはさび付きと考えられます。この原因として「活性酸素」の役割がわかってまいりました。私たちは生きていくために酸素を利用しています。呼吸で吸い込んだ酸素は血液にのって体の隅々まで送りこまれ、エネルギーを作り、体温を上昇させ、筋肉を動かすなど、すべての細胞の働きに必須のものです。しかし体にとって悪さをする活性酸素という副産物がほんの少しですが生み出され、これがさまざまな細胞に酸化という悪影響を引き起こすことが老化の原因です。リンゴや桃の断面が空気に触れて茶色に変色するのがまさにこの酸化です。この活性酸素を消去するのがビタミンCです。

尿酸値が上昇した理由

 初期の霊長類は長い間樹上生活であったためビタミンCを作る必要がなくなりました。2000万年前に誕生した類人猿以降は地上生活が中心となったためビタミンCを潤沢に摂取できなくなり、活性酸素を十分に消去することができなくなりました。そこで目をつけられたのが活性酸素の消去作用をもった尿酸だったようです。それまでは核酸代謝の中間産物であった尿酸を、それ以上こわさないようになり徐々に血清尿酸値が上昇し、ヒトにおいては現在のような値になったと考えられています。男性では4から7 mg/dL程度、女性では3から6 mg/dL程度です。類人猿のなかでも尿酸値が高いほど寿命が延びており、この意味では尿酸は活性酸素を消去して老化から守ってくれる善玉のイメージでとらえることができます。

 ところが血清尿酸濃度が7 mg/dLを超えてくると尿酸の結晶があちこちの組織に蓄積してきて関節においては痛風関節炎を引き起こすわけです。ここから痛風の話に移ってまいります。

 痛風関節炎は、足の親指の付け根に起きることが多いです。同部位の発赤、腫脹、圧痛、局所熱感を認めます。面白いことに左右同時に起こることはありません。ほかにも手の指や手の甲、肘、膝、かかと、足の甲、耳たぶなども好発部位として知られ、共通して体温より低い外気温に触れる場所と理解されます。

 痛風関節炎は突然に激烈な疼痛で発症します。圧倒的に男性に多いです。日常生活の欧米化も関与してここ35年で男性においては5倍に増加し、最近の数字は男性で125万人、女性で5万人ほどと報告されています。痛風予備軍である血清尿酸7 mg/dLを超える患者さんはその10倍おられると推定されています。つまり男性においては1,250万人と計算され、成人男性5人に一人とかなりおおいことがわかってきました。

痛風発作の激痛に対する治療の仕方についてお話しします

 まずは、炎症を抑える抗炎症鎮痛薬NSAIDsを1、2週間用います。しかし、腎機能が半分以下に低下しているときは、副作用として腎機能障害がさらに進行することがありますので使うことは避けるべきです。かわりに経口ステロイド薬を投与するのが安全で確実です。ステロイド薬と聞くと重篤な副作用を想像されるかもしれませんが、20から30 mgの中等量を3日から5日間使用するだけで十分な効果が期待できます。その後は漸減して1週から10日間で中止しますので大きな問題は起きません。ただ、糖尿病の方ではステロイド薬が中等量・短期間であっても糖尿病が悪くなる可能性がありますので注意が必要です。.

 いったん治まった痛風関節炎が再び起きそうだと感じたとき、また再発防止のためにコルヒチンを使うことがあります。コルヒチンは下痢のほかにも重篤な副作用が見られますので注意が必要です。

 1か月ほどたって痛風発作が落ち着いてから、血清尿酸値を下げる薬をようやく始めます。尿酸をげる薬には大きく分けて二つあります。尿酸を作らないように働く尿酸産生阻害薬と、腎臓からの尿酸の出方を促す尿酸排泄促進薬です。高尿酸血症の原因が産生過剰型であれば産生阻害薬を、排泄低下型であれば排泄促進薬を選択するのがいいでしょう。病型分類は随時尿の尿酸濃度をクレアチニン濃度で割り算して0.5以上であれば産生過剰型、0.5以下であれば排泄低下型と目星を付けることができます。排泄促進薬を使うときには尿をpH 6~7のアルカリ側に持っていくことが尿酸による尿路結石症の予防のために良いとされていますので、尿アルカリ化薬を同時に出すこともあります。あるいは尿の尿酸濃度を50 mg/dL以下と薄くするために1日2リットルの水分摂取を勧めます。飲水量の増加は排泄促進薬を増やした後の2週間限定で問題ありません。

 尿酸降下薬を開始する場合の注意事項があります。それは血清の尿酸濃度が急速に低下すると奇妙に思われるかもしれませんが、かえって痛風発作を起こすことです。重要なことは1か月で1 mg/dL程度の低下が望ましいです。徐々に低下させることで関節内に沈着している尿酸結晶が少しずつ小さくなり、結果として関節炎の再発を防止できます。最終的には半年くらいかけて目標尿酸値6 mg/dL以下に向けて薬を調節します。また尿酸降下薬はかならずしも一生飲み続ける必要はありません。痛風関節炎が収まっている間に、痛風になった原因をきちんと分析し患者さんの生活習慣を改善するように指導することによって薬剤投与量を減少できます。遺伝性の原因でなければ薬剤中止も可能になるでしょう。

食事中のプリン体の量を知りましょう

 食事中のプリン体は1日400 mg以下の摂取制限が提唱されています。とくに肉や魚介類、なかでもレバー、白子、エビ、イワシ、カツオなどにプリン体が多く含まれています。アルコール飲料は、含まれるプリン体自体の量は多くなくても、アルコールの分解時にATPを必要とするため尿酸値が上昇します。お酒を毎日飲む人の痛風リスクは2倍になります。またビールは500 mL毎日飲む人では6年間に血清尿酸値が0.5~1.0 mg/dL上昇すると報告されています。さらに清涼飲料水に含まれる果糖(フルクトースとも呼ばれます)が血清尿酸値を上昇させることがわかってきました。少なくとも糖分を含まないものを選んでおいた方が安心です。

 運動についても一言述べましょう。有酸素運動と呼ばれる軽度の散歩、ジョギング、プールでの歩行などで少し脈拍が増加して汗をかく程度のものは有効です。適切な運動は肥満を改善し、インスリン抵抗性を改善しますので血清尿酸値を押し上げる効果があります。痛風および高尿酸血症の生活習慣をまとめますと、『食べ過ぎ・飲み過ぎを避け、美味しいものを適量食べて、適度な運動をし、ストレスを減らす』という生活が奨められます。

 さてここまでは血清尿酸が上昇した時の痛風という病気について話をしてきましたが、痛風予備軍の方が10倍も多い話をしました。そのような方々は痛風を起こさなくとも実は様ざまな問題を有していることが最近の研究で分かってきました。

尿酸値が高いことは痛風以外にも悪さをします

 その代表的な問題は腎臓への影響です。この方面の研究も21世紀に入り著しく進みました。まずは日本から最初の報告が発表されました。それは沖縄県の住民健診データを用いた解析です。血清尿酸値が高いほど数年後の血清クレアチニン値が上昇していたとの報告です。痛風を起こさない尿酸レベルでもその悪影響は観察されたのです。さらに次の報告では、尿酸値が高いと将来的に透析導入になる割合が高くなったというものです。これに刺激され、世界各国から同じ様な研究結果が発表され、その多くは腎の進行因子であるというメッセージです。ただし、このような観察研究だけでは原因と結果を明らかにすることは困難です。尿酸降下薬によって血清尿酸値を下げたときに腎臓障害が守られれば、尿酸が高いことが原因でしたと言えるのですが、残念ながらまだ明らかな研究結果は出ていません。これからの課題と言えるでしょう。

 このような医学上の諸問題は臨床の面だけで解決することは困難です。そこでさまざまな動物モデルを用いて研究することも必要となります。それについても少し触れましょう。

 さきにのべましたように実験動物としてよくつかわれるネズミたちは血清尿酸1 mg/dLに到達しないとても低いレベルです。このこともこの方面の研究が進まなかった理由と考えられます。そこでアメリカのある研究者たちがオキソニン酸という薬物を餌にまぜると血清尿酸値が2倍に上昇することを見つけました。その状態で飼育したネズミとそうでないネズミと比べるといろいろな変化が見えてきたのです。結論から言いますと、血清尿酸の上昇によりネズミの全身血圧をあげ、腎臓の血管壁が厚くなり、腎虚血を招くことがわかりました。さらに尿たんぱく排泄量も2倍に増加しました。そして尿酸降下薬を用いますとそれらの変化が消失することから血清尿酸の上昇が明らかに原因であることが分かったのです。

 また、慢性腎臓病があると心筋梗塞や脳血管障害をひきおこすいわゆる心腎相関があるということがわかっていますが、これも血清尿酸がキープレーヤーではないかと考えられます。このような影響は痛風を引き起こす血清尿酸値が7 mg/dLを下回っても起きており、尿酸の結晶ができることとは関係ない可能性があります。したがって、慢性腎臓病の原因となるような糖尿病、肥満症、高血圧、動脈硬化症、蛋白尿が出ている患者さんの場合は、血清尿酸値に対する介入が必要で先に述べた生活習慣の改善を痛風がなくとも日々こころがけることが大切です。このことが健康寿命を1年でも延伸する秘訣と考えます。最後までご清聴ありがとうございました。

 

日本痛風・尿酸核酸学会が作成しました診療ガイドラインに準拠した説明動画があります。
非専門家および一般市民のかたを対象にしています。是非一度ご覧ください。

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2023/7/29初校

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