COPDについて
慢性閉塞性肺疾患(COPD)について
〜息切れの原因を知り、早期発見・予防につなげましょう〜
1. はじめに
慢性閉塞性肺疾患(COPD:Chronic Obstructive Pulmonary Disease)は、主に長年の喫煙などによって肺に慢性的な炎症が起こり、気流(空気の流れ)が制限される病気です。
以前は「慢性気管支炎」や「肺気腫」と呼ばれていた病気を合わせた総称として使われます。
COPDはゆっくりと進行し、初期は症状がほとんどないため気づかれにくいですが、進行すると息切れ、せき、痰が慢性的に続き、日常生活に大きな影響を与えます。
また、心臓病や骨粗しょう症、糖尿病など他の病気とも関係が深く、健康寿命を短くする原因にもなります。
2. COPDの概念
COPDの特徴は以下の3つです。
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慢性の呼吸器症状(せき、痰、息切れ)
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気流制限(息を吐くスピードや量が減る)
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進行性(時間とともに少しずつ悪化する)
気流制限は完全には元に戻らず、喫煙や大気汚染などの原因による炎症で気道や肺胞(酸素を取り込む小さな袋)が壊れたり、変形したりして起こります。
3. 疫学(どのくらいの人がかかっているか)
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日本では推定500万人以上がCOPDを患っているとされますが、実際に診断されているのはその2割程度です。
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40歳以上では約8〜10%が罹患。特に喫煙歴のある人で多く見られます。
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喫煙者の約2〜3割がCOPDになると言われています。
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男性に多い病気ですが、女性の喫煙率や受動喫煙の影響で女性患者も増加傾向にあります。
4. 原因と危険因子
主な原因
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喫煙(最も大きな原因)
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受動喫煙
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大気汚染(工場、交通、室内の煙)
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職業性粉じん(鉱山、建築、製造業など)
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幼少期の呼吸器感染や低出生体重
危険因子
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長期間の喫煙歴(1日20本を20年以上など)
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高齢(加齢による肺機能低下)
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家族に呼吸器疾患の既往
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栄養不良や運動不足
5. 病態(体の中で何が起こっているか)
COPDでは以下の変化が起こります。
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慢性気管支炎型
気道の炎症によって粘液(痰)が増え、空気の通り道が狭くなる。 -
肺気腫型
肺胞の壁が壊れて空気の袋が大きくなり、酸素交換がしづらくなる。息を吐き出しにくくなり、息切れが強くなる。
多くの患者さんはこの両方の特徴を併せ持っています。
6. 症状
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長引くせき
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痰がからむ
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階段や坂での息切れ
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風邪をひくと悪化しやすい
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体重減少(進行例)
症状は徐々に進行するため、「年齢のせい」や「体力の衰え」と勘違いして放置することが多いです。
7. 診断
(1) 問診
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喫煙歴
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症状の経過
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職業歴や生活環境
(2) 呼吸機能検査(スパイロメトリー)
息を思い切り吸って吐き出し、空気の流れを測定します。
**1秒量(FEV1)**が低下し、**1秒率(FEV1/FVC)**が70%未満であれば気流制限ありと診断されます。
(3) 胸部X線・CT
肺気腫の有無や他の病気との鑑別に役立ちます。
(4) 血液ガス分析
酸素や二酸化炭素の交換状態を確認します(重症例)。
8. 重症度分類(GOLD分類)
GOLD(Global Initiative for Chronic Obstructive Lung Disease)の分類では、呼吸機能検査の結果でI〜IV期に分けます。
さらに症状の程度(息切れ、日常生活への影響)や急性増悪(悪化発作)の頻度を加味して評価します。
9. 治療
COPDは完治させることはできませんが、治療で進行を遅らせ、症状を軽くすることができます。
(1) 禁煙
最も重要。これだけで進行を大幅に遅らせられます。
(2) 薬物療法
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長時間作用型気管支拡張薬(LABA, LAMA)
気道の筋肉を緩め、呼吸を楽にします。 -
吸入ステロイド薬(ICS)
炎症を抑えます(喘息合併例や急性増悪が多い場合に使用)。 -
併用吸入薬(LAMA+LABA、LABA+ICS、LAMA+LABA+ICS)
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テオフィリン徐放薬(補助的に)
(3) 呼吸リハビリ
呼吸法(口すぼめ呼吸、腹式呼吸)、筋力トレーニング、栄養指導。
(4) 酸素療法
重症例で血中酸素が低い場合に在宅酸素療法(HOT)を導入。
10. 急性増悪(急な悪化)
風邪や感染、大気汚染、喫煙再開などがきっかけで症状が急に悪化します。
早期対応が重要で、放置すると命に関わることもあります。
11. 予防
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禁煙(発症予防と進行抑制)
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感染予防(インフルエンザワクチン、肺炎球菌ワクチン)
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栄養管理(筋力維持)
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適度な運動(ウォーキング、筋トレ)
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室内空気の清浄化(換気、空気清浄機)
12. COPDと生活習慣病
COPDは生活習慣病と深く関わっています。糖尿病、高血圧、動脈硬化、骨粗しょう症などの合併が多く、総合的な管理が必要です。
13. まとめ
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COPDは主に喫煙が原因で起こる進行性の呼吸器病
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早期発見・禁煙で進行を防ぐことが可能
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治療は薬物療法、呼吸リハビリ、生活習慣改善が柱
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合併症や急性増悪の予防が重要
