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酸塩基平衡異常とは


1.酸の生成と排出

 生体を構成する細胞の働きの結果、酸というものが産生されます。1つは炭水化物、脂肪の代謝に由来する炭酸で、1日約15,000から20,000 mEqにもなります。炭酸は、すみやかに水と二酸化炭素に分解され、二酸化炭素はそのすべてが肺から呼吸というプロセスによって速やかに排出されるます。一方、三大栄養素のうちの蛋白質が代謝されると、イオウを含むアミノ酸から硫酸が生成され、リン酸を含むアミノ酸からリン酸が生成され、これらは腎から尿中に排泄されます。これらの食事の質と量に左右されますが、およそ1日に50から70 mEq (体重1kg当たり約1 mEq)であり、炭酸に比べてかなり少ないことが分かります。しかし腎からの排泄に影響されるため腎機能が低下しますと体内に蓄積して体を産生に傾けて種々の悪い症状を引き起こします。

二酸化炭素は肺から速やかかつ大量に排泄されるため、肺での換気能が障害されない限り、生体内での酸化が亢進して、酸が蓄積することはありません。したがって二酸化炭素が蓄積する病態は“呼吸性”と言われます。一方の腎からの酸の処理能力は、肺に比べて小さいですが、細胞代謝の影響を受けることから“代謝性”と言われます。

2.酸・塩基および緩衝系について

酸はH+ (プロトン)を供給しうる分子でHAと表記される。ここでA-はH+を受容しうる分子と定義され塩基とよばれます。これらの分子が水という溶液のなかで存在するときは、HA ↔ H++A- なる解離式で表されます。塩基は、HCO3-、HPO42-などのような弱酸の共役塩基である場合がほとんどであり、解離定数(pK)も正常の7に近いです。すなわち正常のpH 7.4を維持するのに重要な働きを演じています。

3.生体の緩衝系について

では、生体内の緩衝系はどうなっているのでしょうか。細胞外の緩衝系は、主に重炭酸/炭酸系が主たる役割を担っている。しかし赤血球のヘモグロビンも意外と大きな役割を果たしています。それはヘモグロビンの構成アミノ酸として多く存在しているヒスチジンのpKが6.5と細胞外液の正常pHに最も近いことが関与しています。一方、時間経過とともに細胞内緩衝系も重要な役割を果たすようになる。タンパク質、有機リン酸、さらに骨が機能していることが知られています。

さて、1日に生成される50~70 mEqの酸はどのように処理されているのでしょうか?正常の血中重炭酸イオン濃度は24 mEq/Lであり、糸球体濾過量が約140 L/日とすると、原尿中に1日24×140=3,360 mEqが濾過されることになります。しかしその大部分は近位尿細管でナトリウムイオンと共に再吸収され、尿中に喪失することはありません。したがって、代謝性アシドーシスがあって血中重炭酸イオン濃度が低い状態では、糸球体濾過されたすべてが回収されても正常に回復させることにはなりません。

低下した重炭酸イオンは、皮質集合管でのプロトンの分泌によってなされています。プロトンの受容分子としてアンモニアとリン酸があり、特に前者の役割が大きいです。この機構により生体に生じた不揮発性酸はすべて尿中に排泄され、それと交換される形で重炭酸イオンが血液中に放出されるのです。

4.酸塩基平衡異常が生体に及ぼす悪影響

ところで酸塩基平衡異常が生じると何がよくないのでしょうか?正常値から逸脱することが良くないだろうということは漠然と理解できるが、それを医学的に説明すると表1のようなことが考えられます。まずアシドーシスです。すぐ思いつくのは細胞内外の移動による細胞内からのカリウム放出で、高K血症を招きます。そして心血管系に及ぼす影響が重要で不整脈、心機能低下も致命的となります。長期的には骨という緩衝系に悪影響をもたらし、これは腎不全のときの骨吸収という現象につながります。腎に及ぼす影響も石灰化や結石出現で知られており、慢性腎臓病(CKD)の集学的治療においても、代謝性アシドーシスを治療することが重要とされています。具体的には重炭酸イオン濃度を20~22 mEq/lに保持することが望ましいと考えられます。

一方のアルカローシスは何が悪いのでしょうか?カリウムについては逆向きに動くため低K血症となります。低K血症につづいてアンモニア産生が高まり肝性昏睡の悪化を招きます。イオン化カルシウムの低下によるテタニーも容易に理解されます。気づきにくい点として、高度のアルカリ血症では酸素解離曲線の左方移動により末梢で酸素分圧が低下してもヘモグロビンが酸素を放さない結果となり、末梢組織は酸素欠乏に陥ることが重要です。

アシドーシスが悪い理由

アルカローシスが悪い理由

高カリウム血症

低カリウム血症

不整脈の出現

テタニー

心筋収縮力の低下(とくにβ拮抗薬、Ca拮抗薬存在下で)

脱水(HCO3-排泄時にNa+牽引)

末梢血管拡張→ショック

末梢組織の低酸素血症(酸素解離曲線の左方移動)

肺水腫

脳血管収縮

骨融解

肝性昏睡の悪化

筋肉異化

心臓への影響(冠血流低下、不整脈、ジギタリス中毒

腎障害進行(補体活性化)、腎石灰化、尿路結石

 

2023/11/22初校

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