脳卒中について
全体構成
- 脳卒中とは
- 脳卒中の種類
- 主な原因・危険因子
- 症状
- 診断
- 治療
- 脳卒中の再発予防
- 脳卒中後遺症と生活
- 脳卒中を防ぐために
- 当院でできること
【第1章(脳卒中とは)】
「脳卒中」という言葉をきいたことがあるかもしれません。 脳卒中とは,脳の血管になんらかの問題が起こり,脳の細胞に血流が行き止まり、その部分の毛細胞が損傷したり死んだりする症状を指します。 すなわち,脳の血管の病毛が原因で起こる結果,脳そのものが損傷を受ける症状です。
1. 脳卒中には大きく分けて三つの種類があります
- 脳棒塞(のうそくそく):脳の血管がつまり,血流が止まることで起こる
- 脳出血(のうしゅっけつ):脳の血管が破れ,血が滲れ出することで起こる
- くも膜下出血(さぶまくかしゅっけつ):脳を覆う膜の間で血管が破れ,血が滲れ出する
これらは全て,いったん血流に関わる問題から起こり、体の不自由,言語障害,視力障害,最悪の場合には命に關わる事態を引き起こす大変危険な症気です。
2. なぜ「卒中」と呼ばれるの?
「卒中」という言葉には,もともと「いきなりたおれる」「らくだつにたおれる」という意味があります. 脳卒中の症状は、本当にいきなりに発症することが多く,朝けろっとけんきょうだった人が、夜には言語障害や不自由を起こしているなど,ごく短時間で状態が変わります。
このような急性と危険性を表すため,日本語では「脳卒中」と呼ばれているのです。
3. 日本における脳卒中の現状
日本では、脳卒中は昔から三大死因の一つに数えられ,多くの人の命や生活に大きな影響をもたらしています。
- 脳卒中は全死因の約20%を占める
- 脳卒中を経験した人の約2割がなんらかの後遺症(不自由,言語障害)を残す
- 高齢社会の進行とともに症例数は増加している
とくに、日本は世界でも類んまれにみる高齢社会であるため,脳卒中を予防し、早期発見することがさらに重要になっています。
【第2章(脳卒中の種類)】
脳卒中には主に三つのタイプがあります
脳卒中と一口に言っても、実際には原因や症状によっていくつかのタイプに分かれます。 ここでは、代表的な三つのタイプについて、それぞれわかりやすく説明していきます。
- 脳梗塞(のうこうそく)
脳梗塞とは、脳の血管が何らかの原因で「詰まって」しまい、血液が流れなくなることで、その先にある脳細胞が酸素や栄養を受け取れずに死んでしまう病気です。
脳梗塞の主なタイプ
- アテローム血栓性脳梗塞
動脈硬化(血管の老化・硬化)によって、血管の内側に脂肪のかたまり(プラーク)ができ、それが破れて血管をふさぐタイプです。 - 心原性脳塞栓症(しんげんせいのうそくせんしょう)
心臓(特に心房細動などの不整脈)でできた血栓(血のかたまり)が、血流に乗って脳の血管を詰まらせるタイプです。 - ラクナ梗塞(らくなこうそく)
脳の奥深くにある細い血管が詰まる、小さな脳梗塞です。高血圧が原因となることが多いです。
脳梗塞の特徴
- 比較的ゆっくり症状が現れることが多い
- 早期に治療すれば回復する可能性がある
- 高血圧、糖尿病、脂質異常症、喫煙などが主なリスク因子
- 脳出血(のうしゅっけつ)
脳出血は、脳の中の血管が破れて出血し、周囲の脳細胞を圧迫したり、血液が直接脳を傷つけたりする病気です。
脳出血の主な原因
- 長期間にわたる高血圧
- 脳動脈瘤の破裂
- 血液凝固障害(血が止まりにくい病気や、抗凝固薬の副作用)
脳出血の特徴
- 突然の激しい頭痛
- 意識障害や昏睡状態に至ることもある
- 麻痺や言語障害が重度になることが多い
脳出血は出血の量や場所によって、症状の重さが大きく異なります。出血が大きい場合は命に関わる緊急事態となるため、迅速な対応が必要です。
- くも膜下出血(くもまくかしゅっけつ)
くも膜下出血は、脳を包む膜(くも膜)と脳の間に出血が起こる病気です。 もっとも多い原因は、「脳動脈瘤(のうどうみゃくりゅう)」と呼ばれる血管のこぶが破裂することです。
くも膜下出血の特徴
- 突然「バットで殴られたような」激しい頭痛
- 吐き気・嘔吐、意識障害を伴うことが多い
- 再出血や血管攣縮(けっかんれんしゅく)による二次障害が起きやすい
くも膜下出血は発症直後の死亡率が非常に高く、生存できた場合でも重い後遺症が残ることがあります。 少しでも疑われた場合は、一刻も早い救急搬送と専門治療が必要です。
まとめ:脳卒中の種類を正しく知ることが大切
脳卒中には、
- 血管が詰まる【脳梗塞】
- 血管が破れる【脳出血】
- 膜の間で出血する【くも膜下出血】
という3つの大きなタイプがあり、それぞれ原因も治療方法も異なります。
「どのタイプか」を早く診断し、適切な治療を受けることが、命を守り、後遺症を防ぐ鍵になります。
【第3章(主な原因・危険因子)】
脳卒中は突然発症する病気ですが、その背景には長年にわたる生活習慣や体の変化が関与しています。
ここでは、脳卒中を引き起こしやすくする主な原因と危険因子について、詳しく解説します。
- 高血圧(こうけつあつ)
高血圧は、脳卒中の最も重要なリスク因子です。
血圧が高い状態が続くと、血管の壁に強い圧力がかかり、血管が傷つきやすくなります。これにより、動脈硬化が進行したり、血管が破れたりするリスクが高まります。
ポイント
- 脳出血の最大の危険因子
- 脳梗塞の発症にも大きく関与
- 血圧の管理が脳卒中予防の第一歩
- 糖尿病(とうにょうびょう)
糖尿病は、血糖値が慢性的に高い状態が続く病気です。
血糖が高いと血管内皮が傷つきやすくなり、動脈硬化を進行させます。特に脳の細い血管にダメージを与えやすく、脳梗塞のリスクを高めます。
ポイント
- 脳梗塞のリスクが2~4倍高まる
- 細い血管の病変(微小血管障害)が進行する
- 脂質異常症(ししついじょうしょう)
脂質異常症とは、血液中のコレステロールや中性脂肪のバランスが崩れている状態を指します。
特に悪玉コレステロール(LDL)が高いと、血管の内側に脂肪がたまり、動脈硬化が進行します。
ポイント
- アテローム血栓性脳梗塞の主要因
- 善玉コレステロール(HDL)が低いこともリスクになる
- 喫煙(きつえん)
たばこは血管を収縮させ、血圧を上げ、血液を固まりやすくします。
また、動脈硬化を促進し、脳卒中全体のリスクを大幅に上げることが知られています。
ポイント
- 喫煙者は非喫煙者に比べ脳卒中リスクが約2倍
- 禁煙によって脳卒中リスクは年々低下する
- 飲酒(いんしゅ)
適量の飲酒は脳卒中リスクに影響を与えないか、むしろ軽く下げるという説もありますが、過度な飲酒は逆に危険です。
大量飲酒は血圧を上昇させ、心房細動を誘発し、脳出血のリスクを高めます。
ポイント
- 1日に日本酒換算で2合以上の多量飲酒は要注意
- 禁酒・節酒が推奨されるケースも多い
- 心房細動(しんぼうさいどう)
心房細動は心臓の上の部屋(心房)が不規則に震える不整脈です。
この異常な動きにより、心臓内に血のかたまり(血栓)ができ、それが脳に飛んで血管を詰まらせる「心原性脳塞栓症」を引き起こします。
ポイント
- 心房細動があると脳梗塞リスクは5倍に上昇
- 高齢になるほど心房細動の頻度は増加
- 肥満(ひまん)と運動不足
肥満は高血圧、糖尿病、脂質異常症を引き起こしやすく、それらを通じて脳卒中リスクを高めます。
また、運動不足もこれらの生活習慣病の悪化を助長します。
ポイント
- 体重管理、適度な運動習慣は重要
- ウォーキングや軽い運動でもリスク低減に効果あり
- 加齢(かれい)
年齢を重ねると血管が硬くなり、動脈硬化が進みやすくなります。
脳卒中は特に高齢者で多く発症する病気ですが、若年者でもリスク因子を持っていれば発症することがあります。
ポイント
- 60歳以降で脳卒中発症リスクが急増
- 若い世代でも生活習慣に注意が必要
- 遺伝(いでん)と家族歴
脳卒中は、ある程度遺伝的な要素も関与します。
家族に脳卒中の患者さんがいる場合、自分自身も注意が必要です。
ポイント
- 両親や兄弟に脳卒中歴がある場合、リスクが上昇
- 生活習慣の改善でリスクを大きく下げられる
まとめ
脳卒中のリスクは、生活習慣病(高血圧、糖尿病、脂質異常症)と生活習慣(喫煙、飲酒、運動不足)によって大きく左右されます。
自分自身のリスクを知り、できるだけ早いうちから予防に取り組むことが、脳卒中を防ぐ一番の近道です。
【第4章(症状)】
脳卒中は、発症するとすぐに体にさまざまな異常が現れます。
ここでは、脳卒中に特徴的な症状について、わかりやすくまとめていきます。
- 半身のしびれ・麻痺(まひ)
脳卒中では、突然、体の片側(右半身または左半身)にしびれや力が入らなくなる麻痺が現れることが多いです。
たとえば、
- 急に片手が持ち上がらなくなった
- 片足を引きずって歩くようになった
- 顔半分がゆがんで動かなくなった(顔面神経麻痺)
などが典型的な症状です。
ポイント
- 右脳が障害されると左半身、左脳が障害されると右半身に症状が出る
- 突然起こる場合は、特に脳卒中を疑う
- 言葉の障害(失語症・構音障害)
脳卒中では、言葉に関するトラブルが起きることもよくあります。
失語症(しつごしょう)
言葉を話したり、聞いて理解したりする能力が低下します。
- うまく単語が出てこない
- 話が支離滅裂になる
- 聞かれても意味が理解できない
構音障害(こうおんしょうがい)
口や舌の筋肉がうまく動かず、発音が不明瞭になります。
- 「ろれつが回らない」
- 言葉が聞き取りにくい
ポイント
- 言葉の異常は左脳の障害で起こることが多い
- 軽い場合でも要注意
- 視覚障害(ししかくしょうがい)
脳卒中では、視覚にも異常が出ることがあります。
- 片方だけ急に見えにくくなる
- 視野の一部が欠ける(半盲)
- 物が二重に見える(複視)
などが起きます。
ポイント
- 視神経や視覚をつかさどる脳の部位が障害されるために起こる
- 「目の病気かな」と思って放置しないことが大事
- めまい・ふらつき・歩行障害
脳卒中のなかでも、特に脳幹(脳の深部)が障害された場合、めまいやふらつきが出やすくなります。
- まっすぐ歩けない
- 急にふらふらして転びそうになる
- 目がぐるぐる回るような感じがする
これらの症状が急に起こった場合は、ただの疲れや三半規管のトラブルと思い込まず、脳卒中の可能性を考える必要があります。
- 意識障害
脳卒中では、意識がもうろうとしたり、呼びかけに反応が鈍くなったりすることもあります。
- ぼんやりしている
- 返事がおかしい
- 突然倒れて意識を失った
こういった場合は、すぐに救急車を呼ぶべき重大なサインです。
- くも膜下出血に特有の症状:激しい頭痛
くも膜下出血の場合は、特有の「人生で一番の頭痛」と表現されるほどの激しい頭痛が突然襲います。
- ハンマーで殴られたような衝撃
- 吐き気や嘔吐を伴う
- 光や音に過敏になることも
このような頭痛は通常の片頭痛や緊張型頭痛とは違い、突然かつ激烈なのが特徴です。
- その他の症状
脳卒中ではほかにもさまざまな症状が現れることがあります。
- 片側の顔だけ汗をかかなくなる
- 飲み込みがうまくいかない(嚥下障害)
- 突然の強い眠気
など、症状は障害された脳の部位によって多彩です。
まとめ
脳卒中の症状は、「突然」発症するのが大きな特徴です。
- 半身のしびれ・麻痺
- 言葉の障害
- 視覚障害
- めまい・ふらつき
- 意識障害
- 激しい頭痛
これらのいずれかが急に現れたら、ためらわずに**すぐ救急車(119番通報)**を呼びましょう。
「様子を見よう」と思っている間に、脳のダメージが広がってしまう危険性があります。
脳卒中は、一刻も早い対応が命を救う病気です。
【第5章(診断)】
脳卒中は発症したら、できるだけ早く正確な診断を受け、適切な治療を始めることが重要です。
ここでは、脳卒中の診断に使われる主な方法について、わかりやすく説明していきます。
- 症状の確認と身体診察
まずは、医師による問診と身体診察が行われます。
脳卒中の兆候を素早く見つけるため、以下のような点が確認されます。
- いつ、どのように症状が出たか(発症時間)
- どの部位に症状があるか(右半身?左半身?)
- 言葉や意識に異常があるか
- 顔や手足の動き、筋力、感覚に異常があるか
✅ 特に、「発症してからの時間」は非常に重要です。
なぜなら、脳卒中の一部の治療は発症後○時間以内にしか行えないからです。
- 頭部CT検査
脳卒中が疑われたら、まず最初に行われる検査が頭部CTスキャンです。
**CT(コンピュータ断層撮影)**では、脳を輪切りにしたような画像を撮影でき、
- 出血(脳出血、くも膜下出血)をすぐに確認できる
- 脳梗塞もある程度は見つけられる(ただし発症直後は映らないこともある)
という特徴があります。
✅ 頭部CTは検査時間が短く、広く普及しており、緊急時には最優先で行われます。
- 頭部MRI検査
**MRI(磁気共鳴画像)**は、脳の詳細な画像を得るための検査です。
特に、CTでは見つけにくい小さな脳梗塞もMRIなら早期に発見できることがあります。
- DWI(拡散強調画像)という特殊な撮影方法で、発症直後の脳梗塞を見つける
- 血管の状態(狭窄や閉塞)を調べるMRA(MR血管撮影)もできる
✅ MRIはより精密な診断が可能ですが、検査に10〜30分ほどかかるため、
超急性期(発症直後)の診断ではCTが優先されることが多いです。
- 血液検査
血液検査も脳卒中の診断において重要な役割を果たします。
主に調べる項目は:
- 血糖値(低血糖による意識障害と区別するため)
- 電解質(ナトリウム、カリウムなど)
- 血液凝固系(血液が固まりやすいかどうか)
- 感染症の有無(感染症による意識障害を除外)
✅ また、血液検査はその後の治療方針(例えばtPA治療を行うかどうか)にも関わってきます。
- 心電図(ECG)検査
脳卒中の中でも「心原性脳塞栓症(心臓から飛んだ血栓による脳梗塞)」を疑う場合、
心電図検査を行って心房細動(不整脈)がないかをチェックします。
✅ 心房細動が見つかれば、治療方針が変わるため非常に重要です。
- 頸動脈超音波検査(エコー検査)
**頸動脈(けいどうみゃく)**は、心臓から脳へ血液を送る大事な血管です。
この頸動脈の超音波検査を行うことで、
- 血管の狭窄(細くなっている部分)
- プラーク(血管内の脂肪のかたまり)
を調べることができます。
✅ 頸動脈に異常が見つかれば、脳梗塞のリスク管理や手術(頸動脈内膜剥離術)の検討が行われます。
- その他の検査
必要に応じて、さらに詳しい検査が行われることもあります。
- 心エコー(心臓の超音波検査)
→ 心臓内部に血栓がないか調べる - 血管造影(脳血管撮影)
→ 血管の詳細な形を調べる - 長時間心電図(ホルター心電図)
→ 発作性の心房細動を探す
✅ 特に若年者や原因不明の脳卒中では、追加検査を組み合わせて原因究明が進められます。
まとめ
脳卒中の診断は、
- 症状の確認
- CTやMRIなどの画像検査
- 血液検査や心電図検査
を組み合わせて行われます。
特に発症直後の迅速な診断が、脳卒中の重症化を防ぎ、
その後の後遺症の程度や生存率を大きく左右します。
「おかしいな?」と思ったらすぐに医療機関を受診し、適切な検査を受けましょう。
【第6章(治療)】
脳卒中は、発症後の初期対応が命を左右する病気です。
ここでは、脳卒中の治療方法について、急性期の対応から再発予防まで、わかりやすくご説明します。
- 超急性期治療(発症直後の対応)
脳卒中が発症したら、できるだけ早く病院に搬送され、専門の治療が始まります。
特に発症後数時間以内の対応が、後遺症を減らすうえで極めて重要です。
脳梗塞の場合
脳の血管が詰まった場合には、次のような治療が行われます。
tPA静注療法(血栓溶解療法)
- 発症から4.5時間以内に限り、**tPA(組織プラスミノーゲンアクチベーター)**という薬を静脈に注射します。
- これは血栓を溶かし、詰まった血管を再開通させる治療です。
✅ ただし、出血のリスクもあるため、厳密な条件を満たす場合にのみ行われます。
血栓回収療法(機械的血栓除去)
- 発症から6時間以内(場合によっては24時間以内)に適応されます。
- 細いカテーテルを血管内に入れ、直接血栓を取り除く治療です。
- 太い血管が詰まっている場合に特に効果的です。
- 内科的治療(薬による治療)
急性期を乗り越えた後は、血管を再び詰まらせないようにするために薬物療法が続けられます。
抗血小板薬
- 脳梗塞の再発を防ぐために使います。
- 例:アスピリン、クロピドグレル
抗凝固薬
- 心房細動などによる心原性脳塞栓症では、血液をサラサラにする薬が必要です。
- 例:ワルファリン、ダビガトラン、アピキサバンなど
血圧管理
- 高血圧をしっかりコントロールすることが、再発予防の鍵になります。
血糖・脂質管理
- 糖尿病や脂質異常症も脳卒中の再発リスクを高めるため、適切に治療します。
- 外科的治療(手術)
出血性脳卒中(脳出血、くも膜下出血)では、外科的な治療が必要になることもあります。
脳出血の場合
- 血腫が大きい場合には、開頭手術で血腫を除去します。
- もしくは、脳の圧を下げるために頭蓋骨を一時的に外すこともあります。
くも膜下出血の場合
- 動脈瘤の破裂が原因の場合、再出血を防ぐために治療します。
- クリッピング術(開頭して動脈瘤の根元を金属クリップで止める)
- コイル塞栓術(カテーテルで動脈瘤内部にコイルを詰める)
✅ くも膜下出血は特に再出血の危険が高いため、迅速な対応が不可欠です。
- リハビリテーション
脳卒中を乗り越えた後、できるだけ早くリハビリテーションを開始することが、回復にとって非常に大切です。
リハビリの目的
- 麻痺した手足の機能回復
- 言語機能や飲み込み機能の回復
- 日常生活動作(ADL)の自立支援
✅ 早期リハビリ(発症から24~48時間以内に開始)が推奨されています。
リハビリの種類
- 理学療法(PT):歩行訓練、バランス訓練
- 作業療法(OT):食事、着替え、トイレ動作の訓練
- 言語療法(ST):言葉・飲み込みの訓練
- 脳卒中後の生活支援
後遺症が残った場合には、さまざまな支援制度を利用することができます。
- 介護保険サービス
- 身体障害者手帳の申請
- 福祉用具(車いす、杖など)の導入
- 住宅改修(手すり設置、段差解消など)
✅ 医師、リハビリスタッフ、ソーシャルワーカーなどが連携して、退院後の生活支援をサポートします。
まとめ
脳卒中の治療は、
- 発症直後の迅速な対応
- その後の内科的・外科的治療
- リハビリテーションと生活支援
の三本柱で進められます。
「時間との勝負」と言われる脳卒中ですが、正しい治療を受け、しっかりリハビリを続けることで、回復の可能性は大きく広がります。
自分の命と生活を守るためにも、脳卒中の治療について正しく知っておきましょう。
【第7章(脳卒中の再発予防)】
脳卒中を一度起こすと、再発のリスクが非常に高まることが知られています。
再発を防ぐためには、日々の生活のなかで積極的にリスク管理を行うことが大切です。
ここでは、脳卒中の再発を防ぐために必要なポイントをわかりやすくご紹介します。
- 血圧のコントロール
脳卒中再発の最大の危険因子は高血圧です。
目標
- 一般には、収縮期血圧(上の血圧)を130mmHg未満に保つことが推奨されます。
- ただし、年齢や体調によっては目標値が変わるため、主治医と相談しながら調整することが大切です。
✅ 毎日の家庭血圧測定を習慣にしましょう。
- 糖尿病と血糖管理
糖尿病を持つ方は、血糖コントロールをしっかり行うことが脳卒中再発予防に重要です。
目標
- HbA1cを7.0%未満に保つことが目標となることが多いですが、個々の状況によって調整します。
✅ 血糖値だけでなく、食事内容や運動習慣も見直すことが必要です。
- 脂質異常症の管理
動脈硬化を進行させないためには、コレステロール管理も欠かせません。
目標
- LDLコレステロールを100mg/dL未満に、できれば70mg/dL未満を目指すことが推奨されるケースもあります。
✅ スタチン系薬剤(コレステロールを下げる薬)の服用が行われることが多いです。
- 抗血小板薬・抗凝固薬の継続
脳梗塞後には、血液をサラサラに保つ薬を長期的に飲み続ける必要があります。
- 抗血小板薬(例:アスピリン、クロピドグレル)
- 抗凝固薬(例:ワルファリン、DOACなど)
✅ 「調子がいいから自己判断でやめる」というのは大変危険です。
必ず医師の指示を守りましょう。
- 禁煙
たばこは脳卒中再発リスクを大幅に高めます。
✅ 禁煙に成功すると、脳卒中リスクは年々下がっていきます。
禁煙外来なども積極的に利用しましょう。
- 節酒
大量飲酒は脳卒中リスクを上げるため、飲酒量の制限が必要です。
目安
- 日本酒なら1合以内
- ビールなら中瓶1本以内
✅ 飲みすぎた翌日は血圧が急上昇しやすいため、特に注意が必要です。
- 食事療法
脳卒中予防には、バランスの取れた食事が欠かせません。
ポイント
- 塩分は1日6g未満を目標に(できるだけ薄味に)
- 野菜・果物をたっぷり摂る
- 飽和脂肪酸(脂っこい肉やバターなど)は控える
✅ 「地中海式食事法」(魚、オリーブオイル、野菜中心)なども効果的とされています。
- 運動療法
適度な運動習慣を身につけることで、血圧や血糖、脂質の管理がしやすくなります。
推奨される運動
- 1日30分程度のウォーキング
- 週に150分以上の中等度の運動
✅ 無理なく、楽しく続けられる運動を選びましょう。
- 体重管理
肥満は高血圧、糖尿病、脂質異常症を悪化させます。
✅ BMI(体格指数)を25未満に保つことが目標とされています。
まとめ
脳卒中の再発予防は、
「生活習慣の見直し」+「薬物療法の継続」
が基本となります。
再発すると、最初の発症時よりも重篤な後遺症が残る可能性が高くなるため、
「今は大丈夫」と思わず、毎日の小さな積み重ねを大切にしましょう。
あなた自身とご家族の未来を守るために、今日からできることを始めましょう。
【第8章(脳卒中後遺症と生活)】
脳卒中は適切な治療を受けることで命を救うことができますが、発症後にさまざまな後遺症が残ることも少なくありません。
ここでは、脳卒中後の生活で直面する主な後遺症と、それに対する支援や対策についてわかりやすく説明します。
- 運動障害(まひ・しびれ)
脳卒中で最も多い後遺症のひとつが運動障害です。
- 体の片側がうまく動かなくなる(片麻痺)
- 手足がしびれたままになる
- 力が入らない、細かい作業が難しくなる
✅ 日常生活(食事、着替え、歩行など)に大きな影響を与えるため、
理学療法(PT)によるリハビリが非常に重要です。
- 言語障害(失語症・構音障害)
脳卒中によって言葉を話したり、理解したりする機能が障害されることがあります。
- 言葉が出てこない(失語症)
- 発音がはっきりしない(構音障害)
- 言葉はわかるが表現が難しい
✅ 言語療法士(ST)の指導のもと、根気強いリハビリを続けることで改善が期待できます。
- 嚥下障害(えんげしょうがい)
脳卒中の影響で、食べ物や飲み物をうまく飲み込めなくなることがあります。
- 食べるとむせやすい
- 飲み込みに時間がかかる
- 誤嚥(食べ物が気管に入る)による肺炎リスクが高まる
✅ 専門的なリハビリと、必要に応じて食事形態の工夫(とろみ食など)が重要です。
- 認知障害(にんちしょうがい)
脳卒中後には、記憶力や判断力、注意力が低下する場合があります。
- 物忘れがひどくなる
- 日付や時間がわからなくなる
- 物事の段取りができない
✅ 早期に専門医に相談し、認知リハビリや環境調整を行うことが大切です。
- 感情・行動の変化
脳卒中の影響で、性格や感情のコントロールが変わることもあります。
- 突然泣き出したり、怒ったりする
- 無気力・うつ状態になる
- 周囲とのコミュニケーションが難しくなる
✅ 本人だけでなく、家族の理解とサポートがとても重要です。
- 疲れやすさ・易疲労性
脳卒中後は、体力が落ち、少しの活動でも疲れやすくなることが多いです。
- 普段できていたことがすぐに疲れる
- 長時間の集中ができない
✅ 適度な休息と、徐々に活動量を増やすリハビリプランが必要です。
- 日常生活への影響
後遺症によって、日常生活にさまざまな支援が必要になることがあります。
- 介護サービスの利用(訪問リハビリ、デイケア)
- 福祉用具の導入(車いす、杖、介護ベッド)
- 住宅改修(バリアフリー化)
✅ 介護保険制度や障害者支援制度をうまく活用して、本人の負担を減らすことが大切です。
- 社会復帰への道のり
脳卒中を経験しても、適切なリハビリと支援によって、仕事や社会活動に復帰することが可能な場合もあります。
- 企業内リハビリテーション
- 障害者雇用支援
- 就労支援施設の利用
✅ 社会復帰には本人の努力だけでなく、周囲の理解とサポートも不可欠です。
まとめ
脳卒中後にはさまざまな後遺症が残る可能性がありますが、
適切なリハビリテーションと生活支援により、
できる限り自立した生活を取り戻すことが目指せます。
脳卒中は一人で戦う病気ではありません。
医療スタッフ、リハビリ専門家、家族、地域社会など、たくさんの支えを受けながら、
一歩ずつ前に進んでいきましょう。
【第9章(脳卒中を防ぐために)】
脳卒中は、生活習慣の改善や定期的な健康チェックによって、予防できる病気です。
ここでは、脳卒中を未然に防ぐために、私たちができることを具体的にご紹介します。
- 血圧管理を徹底しましょう
高血圧は、脳卒中最大の危険因子です。
- 毎日、自宅で血圧を測定する習慣をつけましょう。
- 高血圧と診断されたら、医師の指示に従い、薬をきちんと服用しましょう。
- 塩分を控えめにし、バランスの取れた食事を心がけましょう。
✅ 目標:家庭血圧で135/85 mmHg未満を目指しましょう。
- 生活習慣病(糖尿病・脂質異常症)の予防と管理
- 健康診断で血糖値やコレステロール値を定期的にチェックしましょう。
- 異常があれば早めに治療を始めましょう。
- 野菜中心の食生活、適度な運動習慣が大切です。
✅ 糖尿病や脂質異常症は、気づかないうちに進行することがあるため、放置は厳禁です。
- 禁煙を実践しましょう
たばこは血管に直接ダメージを与え、動脈硬化を促進します。
- 喫煙者は脳卒中リスクが2倍以上に!
- 禁煙外来で医師のサポートを受けると、成功率が上がります。
✅ たばこをやめるだけで、脳卒中リスクは確実に下がります。
- 飲酒は適量を守りましょう
- 過度な飲酒は脳出血リスクを高めます。
- 日本酒なら1日1合以内、ビールなら中瓶1本以内を目安にしましょう。
✅ 「休肝日」を設けるのも効果的です。
- 適度な運動を習慣に
運動は血圧、血糖、脂質のすべてに良い影響を与えます。
- 1日30分のウォーキングから始めましょう。
- 無理なく続けられる運動を選ぶことがコツです。
✅ 運動はストレス解消にもつながり、一石二鳥です。
- 食生活の見直し
- 塩分控えめ(1日6g未満を目標)
- 野菜・果物をたっぷり
- 魚やオリーブオイル中心の食事(地中海式食事法)
✅ 外食や加工食品に含まれる「隠れ塩分」にも注意しましょう。
- ストレスをためない
ストレスは血圧を上げ、生活習慣も乱れやすくなります。
- 趣味を持つ
- 十分な睡眠をとる
- 人との交流を大切にする
✅ 「がまんする」のではなく、「上手に発散する」ことを意識しましょう。
- 定期的な健康診断を受けましょう
健康診断は、無症状でも異常を早期に発見するための大切な機会です。
- 血圧、血糖、脂質、心電図などをチェック
- 異常があれば早めに対策
✅ 「何もないから受けない」ではなく、「何もないことを確認する」ために受けましょう。
まとめ
脳卒中は、「ある日突然」起こる病気ですが、
その背景には毎日の小さな積み重ねが大きく関わっています。
- 血圧管理
- 禁煙・節酒
- 適度な運動
- バランスの良い食事
- 健康診断の活用
これらを意識することで、脳卒中のリスクを大きく減らすことができます。
あなた自身と大切な人を守るために、今日からできる予防を始めましょう。
【第10章(当院でできること)】
当院では、脳卒中の予防・早期発見・再発防止を重視し、地域の皆さまの健康を支えるために、次の取り組みを行っています。
一人ひとりの患者さまに寄り添い、安心してご相談いただける体制を整えています。
- 脳卒中リスクチェックの実施
脳卒中を引き起こすリスク因子(高血圧、糖尿病、脂質異常症など)を早期に発見するため、以下の検査を行っています。
- 血圧測定
- 血液検査(血糖値、コレステロール、HbA1cなど)
- 心電図検査(心房細動の有無を確認)
- 頸動脈超音波検査(頸動脈の狭窄・プラーク評価)
✅ これらを総合的にチェックすることで、将来の脳卒中リスクを「見える化」し、予防へとつなげます。
- 生活習慣病の包括的な管理
高血圧、糖尿病、脂質異常症といった脳卒中の危険因子に対し、薬物治療だけでなく、生活習慣全体を見直すアプローチを行っています。
- 個別に最適化した治療プラン
- 定期的な検査とフォローアップ
- 生活指導(食事・運動・禁煙指導)
✅ 継続しやすい、無理のない管理を一緒に考えていきます。
- 管理栄養士による専門的な栄養指導
当院には週3日、常駐の管理栄養士が在籍しています。
専門家によるきめ細やかな栄養指導を通じて、生活習慣病の改善や脳卒中の再発予防をサポートしています。
- 高血圧・糖尿病・脂質異常症に応じた食事指導
- 減塩や適正カロリーの実践的アドバイス
- 患者さまの生活スタイルに合わせたオーダーメイド提案
✅ 「食事をどう変えたらいいかわからない」という方も、具体的なアドバイスが受けられます。
- 禁煙支援プログラム
喫煙は脳卒中の大きな危険因子です。
当院では禁煙を希望される方に対し、医師・スタッフがしっかりサポートします。
- 禁煙外来の実施
- 禁煙補助薬の処方
- 継続できる禁煙プランの作成
✅ たばこをやめたい方、お気軽にご相談ください。
- 予防医療・健康診断
脳卒中の発症を防ぐためには、**「病気になる前に気づく」**ことが何よりも重要です。
- 健康診断・特定健診の実施
- 生活習慣病予防の啓発
- リスク因子の早期発見と介入
✅ 少しでも気になる症状があれば、まずはご相談ください。
- 脳卒中後のフォローアップと支援
脳卒中を経験された方には、再発予防と生活支援を目的とした長期的なフォローを行っています。
- 血圧・血糖・脂質の継続管理
- 抗血小板薬・抗凝固薬の適正使用
- 介護支援・リハビリテーション連携
- 生活再建に向けたサポート
✅ 回復への道のりを、医療スタッフとともにしっかり歩んでいきましょう。
まとめ
当院では、
「脳卒中にならない」
「なっても最小限に抑える」
「なった後も安心して生活できる」
この3つを大きな目標として、診療に取り組んでいます。
脳卒中について少しでも不安なこと、気になることがあれば、どうぞお気軽にご相談ください。
地域のかかりつけ医として、あなたの健康と安心を全力でサポートいたします。
2023/08/07 初稿
2025/04/27 第2稿