脂質異常症について
〜コレステロールと中性脂肪から未来の健康を守るために〜
第1章:脂質異常症とは何か?
1-1. 「脂質」ってそもそも何?
「脂質」とは、体内のエネルギー源である脂肪のことです。血液の中には主に次の3つの脂質が流れています。
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LDLコレステロール(悪玉コレステロール)
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HDLコレステロール(善玉コレステロール)
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中性脂肪(トリグリセライド)
このうち、LDLコレステロールや中性脂肪が多すぎたり、HDLコレステロールが少なすぎる状態を「脂質異常症」と呼びます。
1-2. 脂質異常症はなぜ怖いの?
脂質異常症は、自覚症状がほとんどありません。しかし、長年放置すると動脈硬化が進行し、脳卒中や心筋梗塞など命にかかわる病気の原因になります。そのため、「沈黙の病気(サイレント・ディジーズ)」とも呼ばれています。
第2章:脂質異常症の種類と診断基準
2-1. 脂質異常症の3タイプ
タイプ | 説明 |
---|---|
高LDLコレステロール血症 | LDLコレステロール(悪玉)が140mg/dL以上 |
低HDLコレステロール血症 | HDLコレステロール(善玉)が40mg/dL未満 |
高トリグリセリド血症 | 中性脂肪が150mg/dL以上 |
これらが1つでも当てはまると「脂質異常症」と診断されます。
2-2. 血液検査の見方
脂質異常症の診断には**血液検査(空腹時採血)**が使われます。重要なのは以下の4項目です:
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LDL-C(悪玉コレステロール)
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HDL-C(善玉コレステロール)
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中性脂肪(TG)
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総コレステロール(TC)
第3章:脂質異常症の原因は?
3-1. 原因は「生活習慣」と「体質」の2つ
生活習慣が原因の脂質異常症(原発性)
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脂っこい食事
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食べ過ぎ
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運動不足
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肥満
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お酒の飲みすぎ
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喫煙
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ストレス
病気や遺伝が原因の脂質異常症(二次性)
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糖尿病
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甲状腺機能低下症
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ネフローゼ症候群
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家族性高コレステロール血症(FH)
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薬剤(ステロイド、利尿剤、免疫抑制薬など)
第4章:脂質異常症が引き起こす病気
4-1. 動脈硬化とは?
血管の内側にコレステロールが溜まり、血管が狭く・硬くなる状態です。これが進行すると以下の病気を引き起こします:
病名 | 症状や結果 |
---|---|
狭心症・心筋梗塞 | 胸の痛み、突然死 |
脳梗塞・脳出血 | 片麻痺、言語障害、意識障害 |
閉塞性動脈硬化症 | 足のしびれ、歩行障害 |
腎機能障害 | 慢性腎臓病(CKD)、人工透析 |
第5章:脂質異常症の症状ってあるの?
実はほとんどの脂質異常症には自覚症状がありません。
しかし、家族性高コレステロール血症などでは以下のような症状が出ることがあります:
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アキレス腱の腫れ(腱黄色腫)
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角膜輪(目の周りの白い輪)
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若年での心筋梗塞の家族歴
第6章:どうやって調べるの?
血液検査(空腹時)が基本です。
初診時には以下の検査も行われることがあります:
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尿検査(糖尿病や腎疾患の合併確認)
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血圧測定
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体重・BMI測定
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頸動脈エコー(動脈硬化の評価)
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心電図(心筋虚血の有無)
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ABI/PWV(血管年齢の測定)
第7章:治療法の基本
7-1. まずは生活習慣の見直しから!
食事
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食物繊維を多く(野菜、海藻、豆類)
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飽和脂肪酸(バター、肉の脂)を減らす
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青魚(DHA・EPA)を積極的に
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甘いもの、ジュースを控える
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塩分を減らす
運動
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1日30分以上、週に合計150分の有酸素運動
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ウォーキング、サイクリング、水泳など
禁煙・節酒
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喫煙はHDLを下げ、動脈硬化を促進します
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アルコールは中性脂肪を増やすため節度が大切
第8章:薬物療法について
8-1. 薬が必要な場合とは?
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生活習慣を改善しても改善しないとき
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他の病気(糖尿病、高血圧、CKD)を合併しているとき
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動脈硬化のリスクが高い場合(冠動脈疾患既往など)
8-2. 主な薬の種類と作用
薬の種類 | 代表薬 | 主な作用 |
---|---|---|
スタチン | アトルバスタチンなど | LDLを下げる、動脈硬化予防効果大 |
フィブラート系 | ベザフィブラートなど | 中性脂肪を下げ、HDLを上げる |
エゼチミブ | ゼチーア | 腸からのコレステロール吸収を抑える |
EPA製剤 | エパデールなど | 中性脂肪を下げ、炎症も抑える |
PCSK9阻害薬 | レパーサなど | 注射薬、高リスク例に用いる |
第9章:検査値の目標は?
対象 | LDL-C(悪玉) | HDL-C(善玉) | 中性脂肪(TG) |
---|---|---|---|
一般成人 | <140mg/dL | ≧40mg/dL | <150mg/dL |
糖尿病・心血管病あり | <100mg/dLまたは<70mg/dL | ≧40mg/dL | <150mg/dL |
※リスクに応じて医師が個別に設定します。
第10章:脂質異常症と他の病気の関係
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糖尿病:動脈硬化を強く進行させる
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高血圧:血管にダブルパンチ
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慢性腎臓病(CKD):腎機能が悪化すると脂質異常も進行
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肥満:内臓脂肪がLDL↑HDL↓TG↑を引き起こす
これらの病気が合併している場合、治療目標もより厳しくなります。
第11章:脂質異常症は「治る病気」?
脂質異常症は体質的な要素が強いため、「完全に治る」というよりは、コントロールする病気です。
生活習慣を見直し、必要に応じて薬を服用することで、長期にわたって動脈硬化を防ぐことができます。
第12章:家庭でできる自己管理
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定期的な体重測定
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毎日の食事記録・栄養管理
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家庭用血圧計や体組成計の活用
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血液検査の結果を記録しておく
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医師の指導のもとでの運動プログラム
第13章:Q&A よくある質問
Q1. コレステロールの多い食べ物は食べたらだめ?
→ 卵やエビなどのコレステロール自体よりも、「飽和脂肪酸」の摂取に注意しましょう。
Q2. お薬を飲み始めたら、一生飲み続けるの?
→ 生活改善の努力次第で減薬や中止も可能です。定期的な医師の判断が必要です。
Q3. サプリメントでコレステロールは下がる?
→ 一部に効果が示されているものもありますが、医薬品の代用にはなりません。
第14章:まとめ 〜未来の健康のために〜
脂質異常症は、症状がないからといって軽く見てはいけません。
定期的な血液検査、生活習慣の見直し、必要に応じた治療を継続することで、脳卒中・心筋梗塞・腎不全などから自分自身を守ることができます。
あなたとご家族の健康を守る第一歩として、今日から「血液の健康」を意識してみましょう。
2023/09/22初稿
2025/04/25第2稿