慢性腎臓病について
CKD(慢性腎臓病の略語です)という概念が腎臓病診療に導入されてからほぼ20年が経過しました。原疾患を問わず、慢性に経過するすべての腎臓病を腎糸球体ろ過量と尿蛋白排泄量で決定するという画期的な考え方でありますが、現在では腎臓学会以外にも広く医学領域に受け入れられ、腎臓病診療の標準化に大いに貢献したと思われます。
腎糸球体濾過量というのは、腎臓が窒素代謝物を尿中に排泄する能力を表し、多くの場合、この腎糸球体濾過量がいわゆる「腎機能」の代名詞として使われることが多いです。それとは別に、尿蛋白排泄量が短期的にも長期的にも腎機能に大きな影響力を持っていることが判明し、この2つの因子をそれぞれ丁寧に評価することが重要であることが分かってきました。
本邦のCKD患者さんは1300万人以上おられ、成人の8人に一人と試算されています。CKDの問題の1つは、その罹患者数が多いゆえに、最終的に人工透析を受ける患者さんが毎年3万人を超え、トータル35万人以上の患者さんが、血液透析を中心とした治療を余儀なくされているという実態です。さらにもう1つの問題は、CKDがあると脳、心、血管の病気を発病するということがここ20年でわかってきたことです。近年の新型コロナウイルス感染症においてもCKDの患者さんは基礎疾患を有していると判定され、感染すると重症化しやすいことが世界各国において証明されています。
このように、CKDの患者さんを早期に発見し、早い時期から適切な治療を行い、患者さん一人一人の経過に合わせて最も適切な指導を行うことが重要です。そのためには医師だけではなく、看護師、栄養士、理学療法士、検査技師、心理療法士を含めたオールジャパンの力の結集が不可欠です。
今回は、わが国の保険診療を考慮して、かかりつけ医がCKD患者を診療する際の指南書として策定された「CKD診療ガイド2012 日本腎臓学会編 東京医学社出版」のサマリーを供覧したいと思います。ここには、CKD 診療の標準化と末期腎不全への進展阻止、心血管病の予防につながる要点が記載されています。このホームページをご覧いただいていますみなさんの理解の手助けになると思います。さらに詳しいお話が聞きたいとの希望がございましたら遠慮なくお電話ないし電子メールをください。
CKD患者診療のエッセンス 2012 (CKD診療ガイド2012 日本腎臓学会編 東京医学社発行から引用)
1.CKD(慢性腎臓病)とは、腎臓の障害(蛋白尿など)、もしくはGFR(糸球体濾過量)60 mL/分/1.73m2 未満の腎機能低下が 3 カ月以上持続するもの、である。
2.推算 GFR(eGFR)は以下の血清クレアチニンの推算式(eGFRcreat)で算出する。るいそうまたは下肢切断者などの筋肉量の極端に少ない場合には血清シスタチン C(eGFRcys)の推算式がより適切である。
3.CKDの重症度は原因(Cause:C)、腎機能(GFR:G)、蛋白尿(アルブミン尿: A)によるCGA 分類で評価する。
4.CKDは、CVD(心血管疾患)および ESKD(末期腎不全)発症の重要なリスクファクターである。
5.CKD患者の診療には、かかりつけ医と腎臓専門医の診療連携が重要である。
6.以下のいずれかがあれば腎臓専門医へ紹介することが望ましい。
1) 尿蛋白 0.50 g/gCr以上または検尿試験紙で尿蛋白2+以上
2) 蛋白尿と血尿がともに陽性(1+以上)
3) 40 歳未満 GFR 60 mL/分/1.73m2 未満
40 歳以上70歳未満 GFR 50 mL/分/1.73m2 未満
70 歳以上 GFR 40 mL/分/1.73m2 未満
7.CKDの治療にあたっては、まず生活習慣の改善(禁煙、減塩、肥満の改善など)を行う。
8.CKD患者の血圧の管理目標は130/80 mmHg以下である
9.高齢者においては 140/90 mmHgを目標に降圧し、腎機能悪化や臓器の虚血症状がみられないことを確認し、130/80 mmHg以下に慎重に降圧する。また、収縮期血圧 110mmHg未満への降圧を避ける。
10.糖尿病患者および 0.15g/gCr以上(アルブミン尿 30 mg/gCr以上)の蛋白尿を有する患者において、第一選択の降圧薬は ACE 阻害薬とアンジオテンシン受容体拮抗薬(ARB)である。
11.蛋白尿が0.15 g/gCr未満の非糖尿病患者の降圧には、降圧薬の種類を問わない。
12.高度蛋白尿(0。50 g/gCr 以上)を呈する若年・中年の患者では、尿蛋白 0.50 g/gCr未満を目標として RAS阻害薬を使用して治療する。
13.ACE阻害薬やARB投与時には、血清クレアチニン値の上昇 (eGFR の低下) や高K血症に注意する。
14.糖尿病では血糖をHbA1c 6.9%(NGSP)未満に管理する。
15.CKDではCVDの予防を含めてLDLコレステロールは120 mg/dL未満にコントロールする。
16.CKD患者の貧血では、消化管出血などを除外し、フェリチン100 ng/mL以上またはTSAT 20%以上で鉄が不足していないことを確認する。
17.腎性貧血に対する赤血球造血刺激因子製剤(erythropoiesis stimulating agent:ESA)を使用した治療の目標値は、Hb 10~12 g/dLである。
18.CKDステージG3aより、血清P、Ca、PTH、ALPのモニターを行い、基準値内に維持するよう、適切な治療を行う。
19.CKDステージG3aより、高K血症、代謝性アシドーシスに対する定期的な検査を行う。
20.CKD患者には腎障害性の薬物投与を避け、腎排泄性の薬剤は腎機能に応じて減量や投与間隔の延長を行う。